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オムニヴォア

書くために読んだもの。読むために書いたもの。2016.10.2より。読書の記録を中心に、日々の潜考の記録。いつか自分の本を1冊でも出すのが夢です。オムニヴォア(Omnivore = 1.雑食(性)動物 2.知識欲旺盛な人)

「あなたって、そばに女がいないとダメな人よね」 / 「女のいない男たち」 村上春樹

 

女のいない男たち

女のいない男たち

 

 最後のお話がとてもいいですね。きゅっとここまでの話をまとめていく感じで。帰って奥さんとハグしたくなる小説でした。

女のいない男たち (文春文庫 む 5-14) まっささんの感想 - 読書メーター

もうちょっと深掘る:性的な要素を削ぎ落としても、僕は「女好き」。

 「あなたって、そばに女がいないとダメな人よね」

まだ付き合う前の奥さんに言われたセリフである。なんだ、どういう意味ですか、それは、と混乱したけど、妙に「そうかもしれない」と納得してしまったのも覚えている。

 甘えさせてくれる相手がいないとダメということか。同時に甘えてくれる相手がいないとダメということかもしれない。僕は典型的な一人っ子体質だが、一人っ子は孤独に耐性があるだけで、何も進んで一人でいたいわけではない。落ち着かない相手といるくらいなら一人で過ごすほうが楽なのであって、誰かと一緒に居たいという渇きは、兄弟がいない分、より強いという考え方もある。コーヒーが飲めない時に、じゃあジュースで妥協するかとはならずに、何も飲まないと選択するだけで、コーヒーが飲めればそれに越したことはない。

 昔も今も、どちらかというと、相手が女の人の方が会話が弾むしすぐに友達になれる。職場も女の人ばっかりだ。特におしゃべりな女の人は好きだ。こっちが1を投げると5くらい返ってくる女の人の話を聞いているのは楽しい。

女の人って、基本的によく笑ってくれるから好きだ。女は嘘つきだ、とか、何考えているかわからないと言う人は言うけれど、それは「付き合う」とか「結婚」とか、男女の駆け引きをベースに判断するが故に、嘘や支配できなさがマイナスに働くのであって、別に相手に異性として好かれようと思わなければ、相手の嘘なんてどうでもいいではないか。

むしろ、男よりずっと素直に感情表現が豊かな女の人の方が、そばにいて楽しい。

あまりにシャイな女の人はちょっと苦手かもしれない。男要素の強い女の人がいい。「あなた、それおっさんじゃん!」とか軽口叩けるくらいがいい。そういう僕は女要素が強い男なのかもしれない。

さて、「女のいない男たち」である。村上春樹の6つの短編集だ。

実際に女がいない男が読むと、絶望感が加速すること間違いない。男がいない女も同様だろう。非常に危ない。日本だけでなく、世界中で小説が売れまくっている大作家が、ただの失恋を、もっと汎用性を高めに高めて、人生何にでも応用が効く絶望感や飢餓感にまで遠慮なく昇華させている。全く隙がない。6種のバリエーションを持って、読者を追い詰めていく。

いつものように村上春樹の書くものにわかりやすい救いはない。大切な人と結ばれない、その辛さを辛さのままパッケージして閉じ込める。簡単には去っていった女が戻ってきたりはしない。演歌の歌詞を聞いているようだ。去っていったあの人を思うばかりである。誰も迎えには来てくれない。古典ではなく、いまの時代の中にあり、それでいて永遠普遍のテーマである色恋沙汰の先にある男女論。ただただ痛いか、「ああ俺はこうではない」と安心するか。ただこの本には、今は女を失っていない男も、いつかは必ずその隣にいる女を失う時が来るんだぞ、という呪いも、しっかり書き込まれている。全く隙がないのである。

 こんな本、読まなくたって全然いいだろうと思うけど、実際に読まない奴とは友達になれそうもない。なんだろうね、この感じ。僕が女の人と話すほうが気が楽なのは、女の人の方が、人の痛みに敏感な気がするから。真っ当に歳を重ねた女の人の、肩の力を抜いて相手を自然に気遣えるやさしさは心地良い。感謝さえする。気遣いは、ここを触られたら痛いはずだろうという想像力がなければ成り立たない。痛みのシミュレーションは、実際に自分が負った痛みを元に行われるから、ろくに傷ついたこともない貧しい生き方では、その精度が上がっていかない。小説はバーチャルに傷つくことができるツールとして優秀なのだろう。

 「あなたって、そばに女がいないとダメな人よね」

それにしてもどういう意味なんだろう。これは。まあ、とりあえず、そう言った当人がそばにいてくれるのだから文句はない。僕がいつか妻に先立たれたり離婚されたりして「女のいない男たち」の一人になるのか、僕が先に死んでしまって、彼女を「男のいない女」にしてしまうのか。どちらになるのかわからないが、冬の寒さをしのぐためには、春の暖かさの記憶が不可欠だ。今はそれを大事にしていくか。